朝起きて目を開けたら、ふわりと微笑む笑顔があった
今年一番最初に見たものが恋人の甘い微笑みだなんて、これは本当に私の人生なのだろうか


初日の入り



目蓋越しに指す光がまぶしい。
このぶんなら、もう早朝とは言えない時間だろう。
小鳥のさえずりで目が覚めたからといって、怒っては申し訳のない時間であることだけは間違いない。
そもそもまだ眠っていたいのは鳥のせいではないのだから、お門違いもいいところではあるのだけど。

まだ昨日の疲れが抜けきってないのか、もう少し眠って居たいと身体が訴えている。
吸い込む空気は刺すように冷たくて、肌寒さを感じるものだから、暖かい方へ擦り寄った。
じんわりと暖かくて、甘い匂いがする。
慣れきった温度に頭を擦り付けた。
ふ、と頭の上で、人の微笑む気配がする。頭の後ろから救うように撫でられて、そのまま胸に押しつけられる。
まだ、眠いのに。
眉間に皺が寄るのを感じながら重たい瞼を開けると、目の前には眩しいぐらいに微笑んでいる男が居た。
ふわりと微笑みながら、私の顔を覗き込んでくる。


「おはよう」


昨日の今日でお互いに裸のままなわけで、触れる体温もあって気恥ずかしい。
今年1番にコイツの顔を見られて嬉しいだなんて思う自分も。

私の頬やら髪やらに触れて、優しく笑っているこの男は、去年もこんなふうだった。
年を越したといっても日を跨いだだけで、何が変わるものでもないと分かってはいたけれど、これでは代わり映えがしなさすぎる。


「起きてたなら起こせよ」

「ごめん、三郎があまりにも可愛かったから」

「・・・・初日の出、見るんじゃなかったのかよ」


起きていたのなら、起こせばいいのに。
昨晩床につく前に、一緒に初日の出を見ようかと誘ったのはお前じゃないか。
もっとも、起きられなかったのはコイツのせいなのだから、私は意地でも謝らないが。
ただ、お前は一緒に初日に出を見たくなかったのかと問われると、否とは言えぬのが悔しいところだ。

そんな葛藤を、まるで全部察したみたいにごめんと言うのは、反則なのではないだろうか。
ごめんというのならば、せめて申し訳なさそうな顔ぐらいしたらどうなんだ。表情筋の緩みきった顔で言われたって、困るじゃないか。


「今日は、まだ寝てていいんじゃない?」

ちゅ

そういって兵助は私の耳元にキスをする。
ぐいっと身体ごと引き寄せられてしまえば、ろくな抵抗なんて出来やしないんだ。


「寝正月かよ」

「だって三郎、まだ眠いだろ??」


本当はもう眠くなんてない。兵助の溶けたみたいな笑顔で、目が覚めてしまっていた。
でもそれに気が付かない兵助ではないから、きっと分かっていてやっているのだ。
結局まだ離れ難いのは私としても同じことで、でも正直に伝えてやる気なんてさらさらないから、兵助の詭弁に納得した振りをする。


「なあ、初日の出は来年見るとして、今年は初日の入りを見に行こうか」


耳元で囁かれた言葉に、肩にすり寄る形で答えたのが、最大限の譲歩というやつだ。




END

南騎 庵